さにー in カリフォルニア

さにーの日記・備忘録・思考・その他諸々

貴重品

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

エイプリルフール(4月1日)の真夜中に事件が起きた。

 

ドンドンドン! …とドアを叩く音。

眼ボケまなこで覗き穴を覗くとハンサムな警察官が!

「エイプリルフールジョークにしては悪趣味だなぁ〜」と

心の中で悪態をつきながらドア越しに

「何かご用でしょうか?」と聞いてみた。

すると、その警察官が切羽詰まった声で

「火事です!一刻も早く外へ避難してください!」と言った。

私の頭の中は疑問だらけ。

「何故消防士じゃなく警察官?新しい詐欺泥棒の手口?」と思いながら

とりあえずコートを羽織り、携帯と財布を持ち、ドアに鍵を掛け、外へ出た。

 

まだ肌寒い夜で、ご近所さん達がアパートの外にパジャマ姿で大勢立っていた。

消防車や消防士達も待機していたものの、消火せずに突っ立っていた。

しばらくして屋根から煙が上がったが、消防士達はそれでも消火せずに

何故か相談しながら他人事の様に観察しているだけ。

そのうち、赤い大きな炎がメラメラと燃えだした。

真っ暗な夜空に光る炎は不気味に綺麗だった。

炎が大きくなってから消火し始めたので、火がすぐ消える気配は一向になく。

消防士達のやり方に不安を通り越して、次第に腹ただしくなって来た。

更に冷え込んで来たので、アパート内の別建屋に住む同僚へ電話をかけ、

事情を説明した所「とりあえずしばらくはうちにおいで。」と優しく言ってくれた。

平日の夜中なのに小さなアパートへ招き入れてくれ、お茶を出してくれた。

朝になるまでの数時間、同僚のソファーで仮眠した。

 

次の日の朝、アパートへ戻ると、アパート建屋の半分が焼け焦げていた。

8室あるアパート(建屋)のうち、4室が全焼。

どうも向かいのアパートの住人がロウソクを消し忘れ、火事になったらしい。

向かいのアパートのドアが開いていたので覗いてみた。

真っ黒焦げになった絨毯や家具が灰と化していた。

焼けた屋根から青空が見え、お日様の光が部屋に差し込んでいた。

 

私のアパートは奇跡的に煙臭いだけで、何も燃えていなかった。

壁一枚のお陰で火災被害を免れた訳だ。

建屋自体が半分損傷し、建築的に不安定なので、

貴重品や服を持って速やかに出る様に言われた。

ドアは鍵が破られており、窓も開いていた。

消防士が念の為に部屋へ入ったと思われる。

窓際に置いてあったグッピー入りの小さな水槽は、

窓から離れた場所へ丁寧に動かされていたが、倒されてはいなかった。

泥棒等に物色された形跡はなかった。

 

とりあえずパスポートや現金や写真、服や洗面用具を持って部屋を出た。

同僚のうちへ戻り、カバンを開けると貴重品を取りに行った筈なのに…。

何故か袋に入ったベーグルパン4つ、クリームチーズとナイフも

カバンの一番上に入っていた。

 

「気持ちが思った以上に乱れている様だ…。」と

その時初めて気がついて苦笑した。

 

アパート会社が別建屋のアパート一室をすぐに用意してくれたので

3日以内に引っ越した。